千倍王鷹虎蝗合成獣

平成仮面ライダーの感想・考察サイト。衒学的で悪し様で居丈高な語り口のブログにようこそ。

『555』騎馬と網と戌亥

f:id:sebaOOO:20150816013557j:plain

 『仮面ライダー555』(以下、『555』)は平成仮面ライダーシリーズの中で一番好きな作品だ。想い入れが強すぎる故に、今まで中々単発記事を書けなかったのだが、ようやく決心がついた。多少、ネタバレを含んでいるのだけれど、物語の根幹・核心には至っていないので、未視聴の方にも是非ご覧になって頂きたい。焦点は、主人公「乾巧」と、もう一人の主人公「木場勇治」だ。

■" The end justifies the means."

 預言者こと藤林聖子は、『555』の主題歌『Justiφ's』についてこう述べている。

――「Justiφ's」の作詞はどのように進みましたか?
藤林:今回、ファイズの企画書を読みながら、まっ先に浮かんだ言葉、それは歌詞の最後にも使っている「The end justifies the means.」でした。意味は「結果は手段を正当化する」。これは、一昨年、アメリカで起きた同時多発テロについて、ネットで調べていた時に出会った言葉なんです。正義とは何か、色々と考えさせられる時代に、テロという悲劇の中で触れた言葉と、歴代のライダーで描かれてきた苦悩とが、私の中で瞬時に一致したんですよね。よし、これを軸に書いていこうって。
 でも、でき上がったら…あれ?『仮面ライダーファイズ』って言葉を使ってないじゃない。それも人に指摘されるまで、全然気が付かないなんて…(笑)。でもプロデューサーから、このくらいの距離感があっていいとのお返事をいただいて、無事完成となりました。
仮面ライダー555

 引用の赤字の英文は、日本語訳(意訳)すると「勝てば官軍、負ければ賊軍」「嘘も方便」「終わり善ければ全て良し」という意味である。9.11後、アメリカのジャーナリスト界で政治批判にしばしば使用された言葉だという。『555』の企画書には、<正義><変身>への懐疑が記述されている。ここに抜粋してみよう。

(壱)「わたしたち」ではないものを、「あいつら」=悪と断じることは許されない。
(弐)「日常=つまらないもの」、「日常からの脱却=夢」と植えつけてはならない。

 こういった話だけ聞くと、白倉伸一郎SUGEEE!」となるが、今年一月に発売された『語ろう!555・剣・響鬼』での敏鬼の語りを読むと、話が変わってくる。

――それでは『555』について伺っていきたいと思います。『アギト』でも様々な新しい試みに挑戦されてましたが、メインライターとしては2作目になる『555』ではどんなことをやろうと?
井上 あのね、それはハッキリしてて、『アギト』でやってなかったことっていうのは、敵側を描くことよ。だから『555』は絶対ね、俺は敵とライダーを同じぐらいに書きたかったの。それがいちばん大きいね。白倉は反対してたけどね、できないって、最初は。(中略)特にカイザのベルトなんてのはさ、変身すると灰になるわけじゃない?でも俺は確信があったんだよね。子供って怖いものが好きなんだよ。
 しかもさ、あのベルトだって変身できるヤツもいるわけじゃない?子供は「俺は変身できるんだ!」と思って買うわけ。俺は選ばれた人間なんだってさ。あれはたぶん全部、白倉が説得したんだよ。
井上敏樹『語ろう!555・剣・響鬼【永遠の平成仮面ライダーシリーズ】』より)

 なんか、肉体派ヤクザの要望を頭脳派ヤクザが理論武装で実現させた、みたいな話だな…!かくして、『555』という作品は産声を上げた。

■夢の守り人

 『555』はスロースターターな作品なので、人に薦めるにはコツがいる。先ずは「第08話」、お次は「第17話」、続いて「第34話」、そして「第50話」までと、4分割して視てもらうのだ。正直、パイロット版は目茶苦茶面白いわけではないのよね。暗いし、誰が主人公か判り難いし。だから、最初は何が何でも「第08話」まで視てもらうこと!そこまで視れば、制作陣が『555』で「何をやりたいか?」が解る。ちょっとだけ、粗筋を紹介してみる。

*****

f:id:sebaOOO:20150816014031j:plain

おい知ってるか。夢を持つとな、
時々すっごい切なくなるが、
時々すっごい熱くなる、らしいぜ。
俺には夢が無い。でもな、夢を守る事はできる。
(乾巧『555』第08話「夢の守り人」より)

f:id:sebaOOO:20150816014042j:plain

知ってるかな。夢っていうのは呪いと同じなんだ。
途中で挫折した者はずっと呪われたまま、らしい。
あなたの、罪は重い。
(木場勇治『555』第08話「夢の守り人」より)

 『555』の主人公、乾巧は仮面ライダーファイズに変身する青年である。
 もう一人の主役、木場勇治は怪人オルフェノクになってしまった男である。

 《スマートブレイン社》という巨大複合企業を隠れ蓑にしているオルフェノクは人間の進化形態であり、《使徒再生》(人間の心臓を破壊し怪人化させる)によって仲間を増やすべく暗躍している。使徒再生の成功率は低く、大抵の人間は死に至るため、乾巧はそれを阻止しようとする。一方、木場勇治は人間として生きるのか?それとも怪人として生きていくのか?迷い悩み続けることとなる。

 『555』のヒロイン、園田真理は美容師になる夢を持っているが、乾巧は夢を持っていない。
 木場勇治の仲間、海堂直也は事故でギタリストになる夢を絶たれたが、夢を託す後輩が出来た。

 園田真理が怪人に狙われている。乾巧は仮面ライダーに変身してその怪人と戦う。
 海堂直也の後輩が怪人に狙われている。木場勇治は怪人と化してその怪人と戦う。

 仮面ライダーと怪人という違いはあれ、乾巧も木場勇治も「夢の守り人」なのだ。

■小さな地球(ほし)の話をしよう

f:id:sebaOOO:20150816014205j:plain

 『555』のオープニング映像には田崎竜太による暗喩が盛り込まれていて、例えば「小さな地球(ほし)の話をしよう♪」の部分で真理ちゃんが<赤い紐>に囚われる所。赤いラインは人間と怪人の<境界線>で、オルフェノクとの因縁に巻き込まれていく運命を暗示している、のかもしれない(←いきなり自信が無くなる)

f:id:sebaOOO:20150816014252j:plain

 で、これは散々語り尽くされていることだけど、OPに出てくる<網(モアレ)>もまた境界線なのよね。

■俺の夢

f:id:sebaOOO:20150816014309j:plain

f:id:sebaOOO:20150816014331j:plain

f:id:sebaOOO:20150816014342j:plain

 最終話で乾巧と木場勇治が対決するシーン。決着後、乾巧は網、境界線の外側へ進むが、木場勇治は内側でうつ伏せるままである。乾巧は、最初から人間と怪人の境界線を超越した存在なのだ。木場勇治が網の向こう側へ行けた時、戦いは真の終決へ向かうことになる。

f:id:sebaOOO:20150816014415j:plain

■ありがとう素敵なファイズ

f:id:sebaOOO:20150816014432j:plain

 しんがぎんという漫画家が亡くなった時、『ONE PIECE』の尾田栄一郎ある人が言うには、漫画家は死んでも、その人の生んだキャラクターが代わりに生き続けるのだという。僕達は、幸せな仕事をしているのかもしれないと思った。と言っていたけれど、それは映像作品に携わっている人達も同じよね。『555』が、これからも名作として語り継がれますように。

[了]