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『小説 仮面ライダー龍騎』感想

 『小説 仮面ライダー龍騎』の感想です。ネタバレは…有るような無いような。

■鏡の中は死の世界

 その世界ではあらゆるものの右と左が逆転していた。
 一番わかり易いのは街を彩る広告や道路標識を見ることである。それらの文字や記号がことごとく反転している。
 誰かがこの世界で愛する者に出会ったとしたら、ギョッとするような違和感を覚えるに違いない。ホクロの位置が逆である。髪の形も左右が逆、微笑む時の唇の形も違っている。
 それは愛する者の顔ではない。どちらかと言えば愛する者のデスマスクに近い。
 その世界では星々の形も右と左が逆転している。すべての星座が反対側を向き反対側に落ちていく。だからここでは星を見上げてはならない。星を読んで自分の位置を確かめてはならない。そうすれば必ず道に迷う。
(中略)
 この世界では言葉を発することはできない。
 それでも相手に意思を伝えることはできる。言葉は思念となって直接相手の心に流れ込む。
 この世界では風が吹かない。言葉は空気を震わせない。音がない。ただ、痛いような静寂だけが広がっている。
 それが、鏡の中の世界(注:"ミラーワールド"とルビが振られている)だ。
井上敏樹『小説 仮面ライダー龍騎』より)

 『ジョジョの奇妙な冒険』に、イルーゾォというスタンド使いが登場する。そいつのスタンドが「マン・イン・ザ・ミラー」と言って、元ネタはマイケル・ジャクソンの『Man In The Mirror』なんだけど、読んで字の如く「鏡の中の世界に出入りできる」能力なのね。で、単行本のオマケページのスタンド解説に、「鏡の中は死の世界」というフレーズがあって、これは言い得て妙だなと。

 龍騎』の仮面ライダーって言わば「死人」なのよね。小説版では、仮面ライダー"仮面契約者" と呼称されているんだけど、彼らは悪魔に魂を売っているようなものだし、秀逸な表現よね(優衣ちゃんも、死んでいるも同然な存在だ)アドベントカードも「契約」を想起させるものだし、その辺は上手いなと。もっとも、小説版ではカードデッキの概念が無いんだけど…。

 『仮面ライダー』シリーズでは "風" がフィーチャー(特別視)されることが多いのに、「この世界では風が吹かない。」と書いちゃうあたりがニクイね。余談だけど、「~ベント」はイタリア語の "vento(風)" から来ていて、ほら、「追い風」とか「風向きが変わる」とか「神風」とか言うじゃない?「~ベント」には「戦局を変える」というニュアンスがあるのだ。

■所詮この世は弱肉強食

 『番長惑星』という漫画がありまして。石森章太郎の「リュウ三部作」の最終作で、簡単に粗筋を説明すると、ひょんなことからパラレルワールドに迷い込んだリュウ!その並行世界ではなんと、『殺人』が許可されていた!というもの。藤子・F・不二夫がいとも容易くえげつないSF短編を描くように、石森章太郎もけっこうこういうの描くのよ。ちらっと、第一話での、主人公「等々力竜(リュウ)」とその友達「左巻ツトム(ハカセ)」の会話を引用してみますか。ちなみに、ここでのハカセは「別世界のハカセ」です。

ハカセ「この世界では理由があれば殺人はゆるされます――許可証さえもっていれば"殺人ゲーム"にも参加できるのです」
リュウ「な…なんてえ世界なんだ……!!」
ハカセ「…強ければ勝利者になれる世界ですよ」
リュウ「ひでえ……!」
ハカセ「…金でも知恵でも力でも――たとえどんな手段でも 最高のものを手にしたらそれが最大の権力者になれるのです!現にこの日本の首相は最高の金持ちです……!…ボクなんかは将来 アタマで勝負しようと考えているんですが……そのへんのところあっちの世界はどうなっています?」
リュウ「ン!?…弱肉強食……首相が金持ち……え…そういわれると………そんなようなもんだって気もするが………… …しかしやはりちょっとちがうな」
石森章太郎『番長惑星』より)

 凄く…『龍騎』です…!まぁ、スタッフがこれにインスパイアされたのかどうかは、定かではないけれど。白倉伸一郎も、最近のインタビューで「『世界忍者戦ジライヤ』をリスペクトした」と言ってたしね『龍騎』に関しては。ちなみに、『番長惑星』は坂本裕次郎の『タカヤ -閃武学園激闘伝-』→『タカヤ-夜明けの炎刃王-』クラスに途中で路線変更します(笑)

 ここで、『小説 仮面ライダー龍騎』の、神崎士郎消滅後の龍騎とナイトの掛け合いを見てみよう。そうだ、言い忘れてたけど、小説版は、劇場版の『EPISODE FINAL』に近いです。だから、下記シーンは、終盤も終盤ということになるね。

(やっぱりやるのかよ)
(ああ)
 龍騎が訊ね、ナイトが答える。
(もう願いは叶わないんだぞ)
(中略)
(いや、叶うさ)
(なんでだよ。契約者バトルを仕組んだ奴は死んだんだぞ)
(じゃあ、なぜおれたちは変身できる? なぜミラーワールドが存在する?)
(それは……わからないけど)
(勝った者が欲しいものを手に入れる。それがミラーワールドの法則だからだ。優衣の兄は主催者じゃない。ただの解説者に過ぎなかった。考えてもみろ、現実世界だってみんな自分の欲のために戦っている。他人を蹴落として夢を叶える。わかるか? 人間はみんな契約者なんだよ。ミラーワールドもそれと同じだ。現実の法則を映しているに過ぎん。だから願いは叶う。それが自然なことなんだ)
(…………)
 蓮は仮面の下で悲しげに歪む真司の顔を見たように思った。
井上敏樹『小説 仮面ライダー龍騎』より)

 驚くべきことに、石森章太郎井上敏樹の思想は非常に近しいのだ。三条陸中島かずききだつよしならいざ知らず、井上敏樹石森章太郎作品に精通しているとは思えない。偶然かもしれないし、魔法かもしれない。これがね、『小説 仮面ライダー龍騎』を読んで、一番唸った所でした。

■どうやら新作の商標が登録出願されたそうですね

 仮面ライダーゴースト』っていうの?もうそんな季節なのか…!「幽霊」というのは、「人知れず同族同士の争いをする孤高の戦士」をやるに相応しい題材ですね。最終的に「自己否定」にもなるし。…ぶっちゃけ、今回の記事はこれが言いたかっただけですよ。ただ、それだけだと難なので、『龍騎』も絡めてみました。というか、『龍騎』の単発記事がこれが初とは…!『電王』も『OOO』もそうなんだけど、小林靖子ライダーって語りにくいんだよな…!あの人は、理詰めじゃあなくて感覚的にホンを書く人だから。『龍騎』はけっこう好きな方なので、また何か書ければと思います。東條悟/タイガが一番好きです。

■オマケ:13人の仮面ライダー

 講談社キャラクター文庫の『小説 仮面ライダー』シリーズだけど、書き手の個性というか、執念(怨念)が色濃く出ていてディ・モールトベネ!ですね。そして、「13人の仮面ライダー」モチーフのネタは、しばしば小説版には出現します。

 一つは、『変身忍者嵐』コラボの時代劇、『小説 仮面ライダー響鬼』。

 十三人の鬼の鎧が一斉に嵐に飛びかかった。
 嵐は十三人の攻撃をかわし間合いをとると、体の羽をふるわせ手裏剣を放った。
「忍法羽根手裏剣!」
 嵐の体から無数の羽根が飛び出し、十三人の鬼の鎧に襲いかかった。十三人の鬼の鎧は鷹のように高く飛んで羽根手裏剣をかわすと空中で一斉に身構えた。
「忍法羽根手裏剣!」
 一斉に叫んだ十三人の体から無数の羽根が飛び出す。
「何ッ!?」
 嵐は刀を風車のようにまわし、かろうじて羽根の襲撃をかわした。
 鬼の鎧は姿形が嵐に似ているだけではなかった。鬼の鎧に嵐とまったく同じ鷹の力を授けられ、彼らはまさに……『十三人の嵐』だった!
きだつよし『小説 仮面ライダー響鬼』より)

 もう一つは、フィリップの一人称で物語が進行する番外編、『小説 仮面ライダーW ~Zを継ぐ者~』。

 ぼくたちの頭の中にはすでに敵の全貌が入っていた。
 ドーパントは十三体。
 
 ズー《動物園》……複数の動物の能力を使いこなす。
 クインビー《女王蜂》……針と毒。飛行能力。ビーを自爆させる。
 フラワー《花》……伸縮自在のムチが武器。地中戦を得意とする。
 エレファント《象》……怪力と鼻。厚い皮膚。
 ドルフィン《イルカ》……水中戦を得意とする。
 サラマンダー《オオサンショウウオ》……強い再生能力。
 フィッシュ《魚》……強靭な歯が武器。
 エイプ《猿》……跳躍力、格闘能力に優れる。
 バード《始祖鳥》……飛行能力。対戦済。
 コックローチ《ゴキブリ》……高速移動。粘液。対戦済。
 ビー《蜂》×3……クインビーの量産タイプ。
三条陸『小説 仮面ライダーW ~Zを継ぐ者~』より)

 みんな好きだなー(笑)

[了]

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