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千倍王鷹虎蝗合成獣

平成仮面ライダーの感想・考察サイト。衒学的で悪し様で居丈高な語り口のブログにようこそ。

『小説 仮面ライダーウィザード』感想

■二匹の竜、天に昇りしとき、闇は裂かれ、希望の光、再び輝かん

『小説 仮面ライダーウィザード』内容紹介
正義の魔法使いVS漆黒の魔法使い!
警視庁国家安全局0課の刑事、大門凛子に協力して、
ファントム残党を一掃するために、
仮面ライダーウィザードとなって日々戦う操真晴人。
突如彼の前に現れたもう一人の“晴人”は
自分こそ本物の晴人だと宣言し、
漆黒の仮面ライダーに変身して攻撃してくる。
二人のライダー対決の裏には周到に用意された
邪悪な企みが隠されていた!

 うん、内容は正に上記の紹介文の通りです(笑)講談社キャラクター文庫から刊行されている『小説 仮面ライダー』シリーズは大きく分けると「後日談(クウガ・剣・電王・フォーゼ)」「総集編(アギト・キバ・ディケイド)」「再編成(龍騎・555)」「番外編(響鬼・W)」「三本立(オーズ)」「手抜き(カブト)」といった感じになるけれど(まぁ『小説 剣』や『小説 電王』を"後日談"と言っていいのかわからんが…!)、『小説 ウィザード』は「300年後~」とか「パラレルワールド~」ではなく本編の正当な後日談となっている。一番近いのは『小説 フォーゼ』かな。『小説 クウガ』はあれだ、完成度と「凄み」が段違いだから同列にできんw

 テレビ版の最終回、「第53話 終わらない物語」より先、劇場版『鎧武&ウィザード 天下分け目の戦国MOVIE大合戦』ウィザードパート以降の話となっている。更に、劇場版『ウィザード&フォーゼ MOVIE大戦アルティメイタム』のそれも内包されている!前者は香村純子、後者は浦沢義雄脚本で、きだつよしは映画には全く関わっていないのに、ちゃんとそれらが「正史」として小説版に組み込まれていたので驚いた。『小説 響鬼』とはえらい違いだ(笑)ちなみに自分は、『小説 響鬼』はトップ3に入るくらい好きです。あれだけ、「うおぉッ!この俺、きだつよしが書きたかった『響鬼』はこれなんだよッ!『変身忍者嵐』も出るよ!」という、執念っつーか怨念を見せつけられたら、逆に清々しいよw

 構成は「序章 + 1章~16章 + 終章」。序章と終章以外が全16章なのは、おそらく現在放送中の『仮面ライダードライブ』が平成仮面ライダーシリーズ第16作品目だからそれに合わせたんでしょう。奇数章が主人公「操真晴人」、偶数章がヒロイン(!)「大門凛子」の一人称視点で書かれている。なんと凛子ちゃんがヒロインですよ凛子ちゃんが!本編だと「仕事してね~w」「役に立たね~w」と散々アンチから扱き下ろされていた凛子ちゃんですが、小説版では超・重要ポジションに(きわどいシーンもあるよ!)きだつよし曰く「コヨミちゃんは妹で凛子ちゃんが恋人」というイメージだったそうで、それが色濃く出てる。戦闘描写はあっさり目で、そこが塚田英明と違う所かな(『小説 フォーゼ』はバトルシーン満載だったからなw)

 と、いうわけで『小説 ウィザード』の感想です。極力ネタバレは避けて書いてますのでご安心を(若干あるかも…!)さぁ、ショータイムだ!

■『龍騎』と『電王』と『OOO』(小林靖子の"のぞみ")

 『小説 ウィザード』を語る前に、小林靖子がメインライターを務めた三作品について触れます。アイタッ!物を投げないで!何故かというと、「小林靖子きだつよしって思想が似てるよね」と思ったからで。ホラ、きだつよし本人もそうおっしゃってるし!

2007/07/05 Thu 「俺、参上!」
…の決めゼリフでおなじみの「仮面ライダー電王」。
( 中 略 )
ライダーやるならこの作品に参加したかった…。
その、なんていうかノリがすごく発砲っぽいんですよ、電王。
あ、もちろん僕の勝手な思い込みでしかないんですけど(笑)。
( 中 略 )
僕がクウガ響鬼に参加した時はプロデューサー色が濃くて
自分の色を全く出せずに終わってしまった感があるんですが、
電王は靖子さんの持ち味が十分に発揮されたよい作品のような気がします。
本放送分にやっと追いついたのでこれからは心おきなく毎週見るぞ!

「俺、参上!」 | きだつよしBlog 不屈夢走

 …なんつーか、きだつよしって 大 人 げ な い よ ね (笑)本人のブログを見てると、『響鬼』や高寺成紀への不満・鬱憤の掃き溜めみたいになってる時があるからなwちなみに、上記の日記は暗に白倉伸一郎への「俺、貴方のライダーでホン書きたいッス!」というメッセージだと思うんだけど、その後の白倉P作品にきだつよしが参加することはなかったようで(フラれちゃったねセンセ!)ただ、舞台の『きだ版ライダー絵巻 激突!電王VS信長』の脚本は手掛けていて、『ウィザード』のチーフプロデューサーたる宇都宮孝明は当時これを見て「いつか一緒に仕事がしたい」と思ったそうで。何が何処に繋がるかはわからんね。…脱線した。小林靖子の話をします。

仮面ライダーウィザードの脚本を担当します | きだつよしBlog 不屈夢走

 これは最近ふと気付いたことなんだけど、『龍騎』『電王』『OOO』って「人間の"のぞみ"」がテーマになってるのね。
龍騎』における"のぞみ"…「 願 い 」
⇒13人の仮面ライダーは、自らの"のぞみ"を叶えるべく、最後の一人になるまで殺し合う。
⇒ラスボス「神崎士郎」の"のぞみ"は、ヒロイン神崎優衣の生存。
『電王』における"のぞみ"…「 時 間 改 変 」
⇒怪人イマジンは、契約者の"のぞみ"を叶えて過去に遡り、タイムパラドックスを引き起こす。
⇒ラスボス「カイ」の"のぞみ"は、自身が消滅しない世界。
『OOO』における"のぞみ"…「 欲 望 」
⇒怪人グリードとヤミーは、人間の"のぞみ"を叶えてセルメダルを生成し、完全体に近づく。
⇒ラスボス「真木清人/恐竜グリード」の"のぞみ"は、美しき世界の終末。

 で、靖子にゃんが訴えているのは、「他人を犠牲にしてまで叶えたい願いは、実はない(龍騎)」「どんなに後悔しても、過去を変えることは許されない(電王)」「過ぎた欲望は、他者を傷付けるだけでなく自らも破滅に向かわせる(OOO)」ということ。小林靖子の平成仮面ライダーは、こういった寓話的側面が強い(そしてファンタジックなんよな)そして、『龍騎』『電王』『OOO』における"のぞみ"、「願い」と「時間改変」と「欲望」はそれぞれ、未来・過去・現在を象徴している。

 『ウィザード』におけるラスボスは二体いる。一人目は「笛木奏/白い魔法使い/ワイズマン」。神崎士郎と同じく、死んだ家族を甦らすべくサバトを行った。これは『龍騎』的"のぞみ"である。二人目は「滝川空/ソラ/グレムリン」。ファントムから人間になるため、賢者の石の魔力供給のために人々を襲った。これは『OOO』的"のぞみ"だ。しかもソラにいたっては人間だった時から殺人鬼だったという筋金入りである。きだつよしが訴えたのは「自分の希望のために他人を絶望させることは悪」だということ。しかし、『ウィザード』では作品の性質上、『電王』的"のぞみ"は書かれなかった。しかし、今回の小説版でそれは網羅されることとなる。『小説 ウィザード』の敵の"のぞみ"は、「時間改変」だからだ。

■タイムウィザードリング

 『アルティメイタム』で「タイム」の魔法が出てきた時には驚いた。「これ、最強の魔法じゃね…?」と。タイムウィザードリングは、『フォーゼ』スタッフの「如月弦太朗が教師になる話をやりたい!だから、辻褄合わせられるようにして。魔法ならなんでもできっしょ?」という激しい無茶振りから生まれた苦肉の策だと思うんだけど、本編で使われることはなかった。それ故に、「『アルティメイタム』はパラレルなんだろうな~。」と思っていたのだが、なんと、小説版でまさかの補足がなされたのだ!

 魔法陣を抜けた俺の目の前に、懐かしい光景が広がっていた。
 俺は、自分をこの場所にいざなった指輪を改めて見た。
 "時間移動"の指輪。時の門を開き、過去や未来へ行き来する事ができる――まさに禁断の力を持つ魔法だ。
 この指輪は前に一度使ったことがある。そのときは、未来からの来訪者を元の時代に送り届けただけだったが、のちに、この指輪の持つ力を恐ろしいと思った。これがあれば過去に戻り、歴史を変える事も可能だからだ。
 変えたい過去、忘れたい過去、人には色々な過去がある。俺にだって、もちろんそんな過去はある。が、だからといって、この力を使って俺が好き勝手に過去を変えてしまったら、もしこの力が誰かの手に渡り悪用されてしまったら……そんな事になったら今の世界は滅茶苦茶になってしまう。それを避けるため、俺はこの指輪を二度と使わないよう、封印していたのだ。
きだつよし『小説 仮面ライダーウィザード』より)

 『小説 ウィザード』の敵は「もう一人の操真晴人」。こいつは操真晴人の「裏」「影」として描かれている。「もう一人の操真晴人」の"のぞみ"の一つは「コヨミを生き長らえさせる」こと。そのために「もう一人の操真晴人」は、タイムウィザードリングを使って「第50話 大切なものは」の時間軸へ移動したのだ。それを止めるべく、操真晴人自身も過去へ飛ぶことに。

 白いブランコのある湖畔では、インフィニティスタイルのウィザードと白い魔法使いが激突していた。そして無惨にもコヨミの体を切り裂くグレムリンのハーメルケイン。その結末がわかっていたとしても、未来からやってきた操真晴人はそれを見届けるだけなのである。「もう一人の操真晴人」が時間改変しようとしても、それを食い止めるのである。自分はそこに、きだつよしの「誠実さ」を見た。過ぎ去った時間は、失われた命は、二度と戻らないし、甦らない。そのテーマが貫かれているから、『ウィザード』は好きなのです。

■今を受け入れるということは自分を受け入れるということ

 『小説 ウィザード』の凄みは、前述した「時間改変の是非」だけで終わらないこと。これ一つだけでも、かなりでっかいテーマなのにね。

 「もう一人の操真晴人」の二つめの"のぞみ"は「大門凛子と結ばれること」。凛子ちゃんがヒロインである意義がここにある。「もう一人の操真晴人」は、晴人が普段押し殺している、心に秘めた感情そのものなので、「ちょっとタイムウィザードリング使ってコヨミ復活させてくるわ」なんて平気でやってしまうし、凛子ちゃんに積極的にアプローチしたりする(しかも、凛子ちゃんもまんざらじゃなさそうなんだなこれがw)理性という箍(タガ)が外れた本能そのもの、と言ってもいいかもしれない。「もう一人の操真晴人」は晴人を否定する。「俺がやっていることこそがお前の本当の"のぞみ"なんだ」と。テレビ本編でも、「第07話 ドラゴンの叫び」や「第19話 今日の命、明日の命」、「第44話 息子の形見は」と「第45 笑顔は胸に」などで、操真晴人は「自分一人で何でも抱え込もうとする」「強がっているだけで、本当は恐怖をひた隠しにしている」ということが描かれていたけど、要するに晴人が自分の"のぞみ"のために戦ったのは「第51話 最後の希望」だけで、他は全て自分の"のぞみ"を切り捨てて他人の"のぞみ"を守るべく戦っていたのよね。「もう一人の操真晴人」は消し去るべきなのかそれとも果たして?これ以上書くと完全にネタバレになってしまうため気になる方は書店へGO!

 『小説 ウィザード』、読んでるとちょいちょい泣きそうになるんだよな…!もう、第1章のこの数行だけで涙が出てくるもんね…!以下、ちょっとだけ引用。

 子供のころ、両親が俺に初めて食べさせてくれたドーナツ、それがプレーンシュガーだった。初めてのドーナツをうまそうに食べる俺の顔を父さんと母さんが嬉しそうにじっと眺めていた。そんな両親を見るのが俺も嬉しくて、それから出かける度にプレーンシュガーをねだるようになった。そしていつのまにか大好物になってしまったというわけだ。
 「晴人は本当にドーナツが好きねえ」
 そう言いながら俺を優しく見つめる母さん……。
 「うまいか?」
 そう言いながら満足げに笑っている父さん……。
 プレーンシュガーをかじると、子どもの頃の温かい家族の記憶が胸の奥に甦ってくる……そんな気がするのだ。
きだつよし『小説 仮面ライダーウィザード』より)

 オススメは、「11章」と「13章」。チンプイと輪島のおっちゃんが、いい味出してます。あとは「序章」。『仮面ライダーウィザード』という物語が、コヨミちゃんの言葉で心情露わに綴られて、「嗚呼、『ウィザード』は、コヨミちゃんの指輪物語だったんだな…!」と、零れているのは、涙?涙を流しているのは、私?となること請け合い。

 『小説 ウィザード』は、本編好き・ファンの人には勿論だけど、「『ウィザード』は可もなく不可もなくって感じだったな~。」「なんか普通だった。」「毒にも薬にもならない感じ。」「ひたすら平坦だった。」と、テレビ本編が少し物足りなく感じた方にこそ読んでいただきたいです。きだつよしの優しさと誠実さがいっぱい詰まった、素敵な小説でした。

[了]